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2013年11月03日

アメリカ財産法|Real Property(不動産法)|Estate制度(不動産権)|Present Possessory Interests (現在権)

アメリカを含む英米法の不動産権の仕組みは極めて複雑だと言われる。また、日本をはじめとする大陸法諸国の制度と全く仕組みが異なっていて、日本で民法の物権法を学んだ者にとって当然の前提としている多くの原則がほとんど通用せず、理解を妨げる原因にもなっている。この、アメリカ法の estate と呼ばれる仕組みについては、残念ながら日本語により解説されたものがあまり多くない。そこで、できる限り正確にその内容を記載したいと思う。

アメリカの不動産権の仕組みは、18世紀にイギリスから独立した際、イギリスの制度を引き継いだものである。では元々のイギリスの不動産権の仕組みはというと、その起源は1066年のノルマン征服王朝の成立に遡る。イギリス(イングランド)ではこの時封建制度が始まったとされるが、不動産権は元々この封建制度の下での要請に適合するよう発展を続けた。何が土地に対する基本的な要請であったかというと、日本の鎌倉時代の様子をイメージするとわかりやすい。当時の御家人[騎士]にとって懸案だったのは、鎌倉殿[国王]に安堵された自分の所領を一族の後の代にきちんと引き継ぐことである。そうなると、今一族の所領である土地が自分の死後どうなるか、生前に決めておきたいという考えが生まれる。イギリスでも基本的な発想は同様であったらしく、ここから、不動産権を時間軸で分ける、という発想が生まれてくることになった。

不動産権を時間軸で分けた結果、権利は「現在土地を保有できる権利」と「将来土地を保有できる権利」の2つに大きく分かれることになった。前者を「present possessory interests(現在権)」、後者を「future interests(将来権)」と呼ぶ。ここで「present "possessory" interests」と "possessory" の語が入っているのは、ここでは easement(地役権)等の土地の全面的な保有を前提としない権利は対象とされていないという意味である。したがって、present possessory interests と future interests の理解を試みる際には、おおむね日本法の所有権を念頭に置いておけば間違いない。

Present possessory interests は一応大きく「freehold」と「nonfreehold」に分かれる。大昔は、nonfreehold は freehold に劣る権利とされていたため区別の実益があった。しかし、現在ではこの両者を理由とする区別取り扱いはないので、ほとんど無視して考えてよい。

重要なのは実質的な権利内容の違いによる分類で、以下のとおり present possessory interests には大きく4種類、さらに細かく見ると全部で6種類の権利が存在する。

Freehold

     1. Fee simple absolute (FSA)
     2. Life estate
     3. Defeasible fees
          a-1. Fee simple determinable (FSD)
          a-2. Fee simple subject to condition subsequent (FSSCS)
          b.    Fee simple subject to executory limitation (FSSEL)

Nonfreehold

     4. Lease

* ちなみに、ほとんどの用語に日本語訳を当てていない。これは、たとえば「defeasible fee」を「消滅条件付封土権」と言い換えてみても、ほとんど理解に役立たないからである。Estate制度では極めて特殊な用語が多く使われているので、基本的に英語のままで用語を受け入れ、役に立つ限りで日本語訳を利用するのが理解の早道だと思われる(「defeasible」という言葉が「消滅条件付きの」という意味だとわかっておけば、上記の3.のグループは「後の何らかの事情で消滅する可能性のある権利のグループ」だと理解しておくことができるので、その限りでは日本語訳が役に立つ。)

* Fee tail は現在アメリカの全ての州で廃止されているため掲載していない。

1.から4.の順に説明する。

1. Fee Simple Absolute

Fee simple absolute は、不動産権の中で最大の種類のものであり、相続人が絶えない限り永続的に存続する可能性のある不動産権をいう。おおむね、日本法の「所有権」に等しい。「Fee」「simple」「absolute」にはそれぞれ一応意味合いがある。 “fee” とはもともと封建的奉仕義務の提供を対価として許された土地保有を意味し、次第に相続が可能な不動産に対する権利を意味するようになった。”simple” は、fee tail(相続人が直系卑属に限られる権利)などと異なり相続性に制限がない不動産権であることを示すために付されるようになった用語である。”absolute” は、将来発生が不確実な事実の発生により消滅するという限定が付されていないことを示すため用いられるようになった(defeasible feeも参照)。(田中英夫編集代表『英米法辞典』)

アメリカ法では、たとえば土地の譲渡契約や遺言において不動産権を設定することができる。そこでは、設定される不動産権によって設定文言がほぼ決まっており、Aに fee simple absolute を設定するのであれば、"to A", "to A absolutely", "to A and his heirs" のどれかを用いるといった具合である。Fee simple absolute は(defeasible fee と違って)そのまま制限無く相続がなされていく権利であるので、昔は "to A and his heirs" と「相続人(heirs)」も含めて権利移転の対象であることを明示しなければならないとされていた。しかし、現在ではそのような解釈ルールは廃止されているので、単に "to A" とだけ記せば fee simple absolute を設定したものと解釈されることになっている。

2. Life Estate

Life estate とは、人の一生によって時間軸が区切られる権利をいう。というと少しややこしいが、要するに「死ぬまで保有できる」権利のことをいう。たとえば、OがAに life estate を設定すると、Aが生きている間はAがその土地を保有し続け、Aが死亡すると権利は自動的にOに復帰する(このときのOは "reverter" という将来権を有していると言う。詳細は将来権の解説を参照)。Aが死亡してもAの相続人はその土地の権利を取得しない。これに対し、Aが死亡した時にOもすでに死亡していると、Oの相続人に土地の権利が移転することになる。

やや応用的な問題として、OがAに life estate を設定し、AがBに "to B" とだけ設定文言を記載して土地を譲渡したらどうなるかという問題がある。"to B" という設定文言だけを見ると、Bは fee simple absolute を有するようにも思える。しかし、「自分が持っている以上の権利を人に譲渡する」ことはできないので、もしAが死亡すると、Bの下から権利はOへと復帰する。このようなBの権利を指して、"life estate pur autre vie (= life estate for the life of another)" と呼ぶ。

3. Defeasible Fees

     a-1. Fee Simple Determinable

Fee simple determinable とは、消滅条件に服する fee simple のことをいう。たとえば、OがAに「その土地が図書館として使われる限りにおいて譲渡する。」とした場合のAの保有する権利をいう。"determinable" とは「終了すべき」との意味で、定められた事実が発生すると当然に終了する旨を示す言葉である。

     a-2. Fee Simple Subject to Condition Subsequent

Fee simple subject to condition subsequent とは、解除条件に服する fee simple のことをいう。たとえば、OがAに「土地を譲渡するが、もしその土地上で麻薬が使用された場合には、Oは土地を取り戻す権利を有する。」とした場合のAの保有する権利をいう。"condition subsequent" は「解除条件」と訳されるが、条件を構成する事実が発生したとしても、すなわち上記の例では土地上で麻薬が使用された場合であっても、当然に権利がOに復帰するわけではなく、Oが解除権を行使する旨の意思表示をした場合にOへ復帰する。この点が、a-1.の fee simple determinable との違いである。

Fee simple determinable と fee simple subject to condition subsequent は、設定文言によりどちらであるか区別される。たとえば、”as long as,” ”so long as,” “while,” “during,” “until” などが用いられていれば fee simple determinable と解され、”but if,” “on condition that,” “provided that,” “provided however,” “if” などが用いられていれば fee simple subject to condition subsequent と解される。

Fee simple determinable と fee simple subject to condition subsequent では、終了が自動的かどうかの違いがあるものの、他はほとんど言葉の違いに過ぎない。特に Rule Against Perpetuities(権利の帰趨がいつまでも確定しない将来権を無効にするためのルール)との関係では区別がされないので、さほど重要な違いではないと考えてよい。

     b. Fee Simple Subject to Executory Limitation

Fee simple subject to executory limitation とは、権利が終了した結果、譲渡人でも譲受人でもない第三者に権利が移転する可能性のある権利である(ごく厳密にはこれ以外のケースも含まれるが、大部分はこのような権利なのでまずはこう理解しておくのがよい。詳細は将来権の解説を参照)。たとえば、OがAに「土地を譲渡するが、もしその土地上で麻薬が使用された場合には、権利はBに移転する。」とした場合のAの保有する権利をいう。平たく言えば、「途中で第三者に土地を持って行かれかねない権利」である。(なお、"executory" とは「未発生の」くらいの意味だが、これだけ覚えても fee simple subject to executory limitation の内容の理解にはほとんど役に立たない。)

4. Lease

Lease とは、一定の期間によって時間軸が区切られる権利をいう。"Estate for a term of years" とも言う。たとえば、10年とか半年とか、そのような期間の間だけ保有できる権利をいう。"Estate for a term of years" という別名にもかかわらず、時間の長短には特に制限がなく、99年でも5分でも、期間として確定してさえいればよい。権利の終了が誰の目にも明らかな期日の到来によってもたらされるため、実は上記2.の life estate にその性質が近いものと理解されている。

その名が示すとおり、この権利を設定すれば土地を賃貸借に供することが可能となる。賃貸借をめぐっては賃貸人の責任等をめぐって様々な問題があるものの、アメリカ法における賃貸借の出発点は「不動産権としての lease の設定」である。この理解は、賃貸借のルールの発展を理解する上で役に立つ。
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アメリカ財産法|Real Property(不動産法)|Estate制度(不動産権)|Future Interests(将来権)(1) :将来権の分類

1. Future Interests(将来権)とは


Future interests とは、たとえばOがAのために甲土地について life estate を設定した場合、Aが死亡すれば甲土地を保有する権利はOに戻る。このとき、OはAへの life estate の設定と同時に「将来土地を保有する権利」を持っていると理論構成し、このようなOの権利を「future interest」という。Future interest は将来どこかの時点で必ず present possessory interest に転換することが予定されている。上の例では、もともとOが甲土地に fee simple absolute を有していて、他に特別な設定文言を付さなかった場合には、OはAの死亡後再び fee simple absolute を保持することになる。


Future interests の性質は、それに先立つ present possessory interests が何であるかに左右され、基本的にその観点で分類されている。したがって future interest (将来権)を理解するためには present possessory interests (現在権)の理解が前提となるので、適宜 present possessory interests の解説を参照して頂きたい。


(※) Future Interests を理解するためのコツ


Future interests を理解するのに当たっては、コツがいくつかある。


- 名称に惑わされない


Present possessory interests にも同じような問題があったが、名称から類推される内容と、実際の権利の内容とが異なっていることがある。しかも、用語法は必ずしも一定せず、学者によって多少異なる用語を用いていたり、時には異なる分類の仕方をしていたりするので、あまり細かい呼び名にこだわらない方が理解が早いと思われる。


- 重要な分類を先に理解する


Future interests には多くの種類があるが、分類の一番重要な目的は Rule Against Perpetuities(権利の帰趨がいつまでも確定しない将来権を無効にするためのルール)の適用があるかないかを判断することである(適用があると、場合によってはその future interests が無効になることがあり得る)。したがって、future interests を見る時には常にこの Rule Against Perpetuities の適用を意識しておくのがよい。一方で、future interests の分類の中には、名称だけの違いであったり、一応権利の内容に違いがあるものの Rule Against Perpetuities との関係では区別がなされないものも少なくない。そうしたものについては、ひとまず理解を後回しにしておくのが早道だと思われる。


- 日本語訳に頼らない


これは present possessory interests のときと同じで、たとえば remainder を「残余権」と訳してみてもあまり理解に役立たないどころか、executory interest との違いを誤解することにもなりかねない。したがって、日本語訳は理解の役に立つ限りで適宜利用するのにとどめておくのがよいと思われる。


2. Future Interests の分類


Future interests は、権利の譲渡人自身が保持するものと、譲受人側(直接の譲受人だけではなく譲渡人以外の全ての人を含むと言った方が正確なため、ここでは「譲受人”側”」と表現している)が保持するものの、大きく2つに分かれる。全体像は次のとおりである。


Future Interests の分類


譲渡人が保持するもの


     1. Reversion


     2. Possibility of reverter


     3. Right of entry または power of termination


譲受人側が保持するもの


     4. Remainder


          (Indefeasibly) vested


          [Somewhere in between]

                  Vested subject to (complete) divestment

                  Vested subject to open (または vested subject to partial divestment) *


          Contingent *


     5. Executory interest *


* は Rule Against Perpetuities の適用を受けるもの。


3. Life estate または Leaseに続く future interests(Reversion と Remainder の違い)


まず、OがAに設定した present possessory interest が life estate の場合、Aが死亡した後の権利の移転先には2通りがあり得る。


     パターン1: "To A for life(, then to O)." (Aに life estate を設定し、Aが死亡したらOの下へ復帰することとする。)


     パターン2: "To A for life, then to B." (Aに life estate を設定し、Aが死亡したらBの下へ移転することとする。)


この場合で、パターン1のOが保持する future interest を「reverter」、パターン2のBが保持する future interest を「remainder」という。ちなみに、パターン1では「To A for life.」とだけ言った時点でAの死後Oに復帰することが明らかなので、「(, then to O)」は普通記載されない。


なお、パターン1、2とも、OがAに設定した権利が life estate ではなく lease であったとしても、上記の説明はそのまま当てはまる。これは、life estate と lease は権利の終了時点が人の死亡か期間の経過かという違いはあるものの、「誰にもどうすることのできないいつか必ず訪れる事由」によって画されるという点では共通しているからである。人の死亡と期間の経過は、まとめて「natural termination」と表現される。先立つ present possessory interest が人の死亡か期間の経過かによって future interest を区別取り扱いしないのは、どちらもいつか必ず訪れる事由であって、それに続く future interest はいつか必ず present possessory interest になり、権利の帰趨が不安定な状態にはならないからである(したがって、Rule Against Perpetuities で制限を設ける必要がない)。このことは、次の defeasible fee に続く future interest を見ていくとよくわかる。


4. Defeasible fee に続く future interests


OがAに設定した present possessory interest が、たとえば「その土地が図書館として使われている限りにおいて」という消滅条件の付いた defeasible fee であった場合(defeasible fee のうちのどれか、というのは一旦措いておく)、Aが条件に違反した後の権利の移転先には2通りがあり得る。


     パターン3: "To A so long as the Land is used for library purposes(, then to O)." (Aに fee simple を設定するが、土地が図書館の目的で使用されなくなったら、Oの下へ復帰することとする。)


     パターン4: "To A so long as the Land is used for library purposes, then to B." (Aに fee simple を設定するが、土地が図書館の目的で使用されなくなったら、Bの下へ移転することとする。)


この場合で、パターン3のOが保持する future interest を「possibility of reverter」、パターンのBが保持する future interest を「executory interest」という。ところで、この場合に元々設定されていた present possessory interest は defeasible fee のうちの何だったのかというと、「so long as」の語が用いられているので「fee simple determinable」なのだが、パターン4ではAの権利が第三者であるBに持って行かれる(「cut short」される、と表現する)関係にあるので、そのような present possessory interest は「fee simple subject to executory limitation」と呼ぶことになっている。まとめると、パターン3ではAが present possessory interest である fee simple determinable、Oが future interest である possibility of reverter を有し、パターン4ではAが present possessory interest である fee simple subject to executory interest、Bが future interest である executory interest を有している。なお、パターン4のOは何の権利も有していない。


もし、パターン3が次のように設定されていたらどうなるか。


     パターン3’: "To A, but if the Land is used for any purpose other than library purposes, then to O." (Aに fee simple を設定するが、土地が図書館の目的以外で使用されたら、Oの下へ復帰することとする。)


この場合、Aの present possessory interest は、消滅条件の部分が「so long as」ではなく「but if」で書かれているので、fee simple determinable ではなく fee simple subject to condition subsequent である。そして、この場合のOの有する future interest も、名称を区別して「right of entry」または「power of termination」と呼ぶことになっている。もっとも、Oの future interest が possibility of reverter なのか right of entry なのかは対応する present possessory interest に起因する呼び名の問題に過ぎない、つまり Rule Against Perpetuities との関係では区別がされないので、あまり強く意識しておく必要はない。(私が教わったロースクールの授業でも、学生がこの両者を混同して回答しても教授は特に問題にしていなかった。教授曰く、"boring classification" とのこと。)


ちなみに、パターン4がパターン3’同様にもし次のように設定されていたとしても、A、Bの権利の呼び名に違いは生じない。このあたりの用語法が今ひとつ一貫しないところが、future interests の理解を難しくしている一因だという気がする。


     "To A, but if the Land is used for any purpose other than library purposes, then to B." (Aに fee simple を設定するが、土地が図書館の目的以外で使用されたら、Bの下へ移転することとする。)


Future interest が executory interestであるとほぼ100パーセント Rule Against Perpetuities の適用を受け、権利が無効になる可能性にさらされるので、future interest が executory interest なのかそれ以外であるかどうかの区別は非常に重要となる。

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アメリカ財産法|Real Property(不動産法)|Estate制度(不動産権)|Future Interests (将来権)(2) :将来権の「確定」について

Future interests の全体像を再掲する。ここでは、「4. Remainder」の中の区別について説明する。

Future Interests の分類

譲渡人が保持するもの

     1. Reversion

     2. Possibility of reverter

     3. Right of entry または power of termination

譲受人側が保持するもの

     4. Remainder

          (Indefeasibly) vested

          "Somewhere in between"
                  Vested subject to (completedivestment
                  Vested subject to open (または vested subject to partial divestment) *

          Contingent *

     5. Executory interest *

* は Rule Against Perpetuities の適用を受けるもの。

1. Vested か Contingent か

Future interests は将来 present possessory interests になることを予定して設定される権利ではあるものの、present possessory interests の設定の仕方によっては、実は永遠に present possessory interests にならない場合もあり得てしまう。たとえば、消滅条件が「その土地が図書館として使用されている限り」となっている場合、土地が永遠に図書館として使用される可能性もあるわけで、その場合の future interests はいつまでたっても権利の帰趨が決まらない状態に陥ってしまいかねない。こうした不都合を防ぐのが Rule Against Perpetuities である。このルールを適用するのに当たっては、「ではその future interests は、どの時点で present possessory interests になり得ることが確定するのか」が重大な関心事となってくる。

そこで用いられるのが「vested in interest」という概念である(以下では単に「vested」と言った場合「vested in interest」を意味する)。「vested in interest」とは、「future interest が、人の死または期間の経過といった時間の経過のみによって present possessory interest に”なり得ること”が確定する」ことを意味する。注意を要するのは、「実際に present possessory interest になる」という意味ではない、ということである(*)。なぜ”なり得ること”の確定を問題にするのかというと、権利の帰趨が不確定な状態を避けようという観点からは、権利が実際に present possessory interest になるのが何百年先であろうが、そのことが確定してさえいれば「不確定な状態」ではないからである。したがって、99年の lease に続く future interest は vested(確定した)だが、一方で、「もし、その土地上で麻薬が使用された場合」という消滅条件に続く future interest は、現実問題としてたとえどんなに明日麻薬が使用される可能性が高かろうが、vested とは言わない。

(*)「実際に present possessory interest になる」ことは「vested in possession」という。

一方、停止条件(condition precedent)の付いている future interest は「contingent(不確定な)」である、という。次のパターン5は、Bに contingent remainder が設定された例である。

     パターン5: "To A for life, and if B survives A, then to B." (Aに life estate を設定し、もしAが死亡した時点でBが生きていれば、Bの下へ移転することとする。)

なお、観念的には reversion についても contingent のものが考えられ、executory interest についても contingent であるものとないものとが考えられるのだが、通常は remainder についてしか contingent の語を用いない。(この点、用語法が少しややこしい。)

2. Vested Subject to Divestment

パターン5とよく似ているが少し違うのが次のパターン6である。この例では、Bの保持する future interest には解除条件が付されている。このようなBの future interest を「vested subject to divestment」であるという(divestment =剥奪、引揚げ、くらいの意味)。

     パターン6: "To A for life, then to B; but if B does not survive A, then to C." (Aに life estate を設定し、Aが死亡したらBの下へ移転することとする。ただし、もしBがAより先に死亡していた場合には、Cの下へ移転することとする。)

内容的にはパターン5とほとんど紙一重の違いしかないのに、何が異なるか。パターン5の場合には、Bの future interest が vested となるために条件が満たされている必要があった。これに対し、パターン6では、(言葉の上では)Aの死亡の時点でBの future interest が vested となることは当然のこととされているものの、その時点以後の事情によりBの権利は剥奪される可能性がある、という定め方をしている。つまり、Aの死亡の後、とにかく一旦はBの権利が vested になるかどうかが異なる。パターン6では、一旦はBの権利が vested になることとされているので、vested subject to divestment が vested なのか contingent なのかという括りでは、vested なのだと扱われている。

もっとも、パターン6で、Bは将来 present possessory interest を得られること自体は一旦確定しているが、別の事情によりその権利がなくなってしまうかもしれないという不確定さを抱えている。その意味では、このパターンはある意味 vested と contingent の中間的な状態と言える(私の教わった教授は "somewhere in between" と呼んで整理していた。ただし、この呼び名はおそらく一般的に使われているものではない)。

ちなみに、パターン5とパターン6は意味内容としてはほとんど同じなのに、言葉の書き表し方が違うだけで異なる権利だと分類されてしまう。しかもその結果、パターン5のBの contingent remainder には Rule Against Perpetuities が適用されるが、パターン6のBの vested subject to divestment である権利には同ルールが適用されない、という違いまで生じてしまう(幸い、上記の例では同ルールの適用によっても権利が無効とされることはないが、そうではない場合も当然ありうる)。このあたりは弁護士の腕の見せ所のようであり、逆に弁護士の仕事の仕方が悪いととんでもない結果が生じかねないということでもあるらしい。

3. Vested Subject to Open

Remainder が不確定とみなされる場合には、上記の contingent remainder の他、もう1つのパターンがある。それが、権利の設定が一人の人ではなく、ある共通の属性を有するグループ(これを「class」という)に対してなされ、その class のメンバーが決定しない場合(厳密には、メンバーが増え一人当たりの権利が縮減する可能性がある場合)である。次の例が代表例である。

     パターン7: "To A for life, then to A's children." (Aに life estate を設定し、Aが死亡したらAの子たちの下へ移転することとする。)

この例で、なぜAの子たちの future interests を完全に「vested」の状態の future interests と区別し、不確定だとみなすのか。それはひとえに、Aが自分の子を増やす可能性があるからである。Aの子が増えれば、Aの子一人当たりの権利の分け前は減っていく。Aの子の立場にしてみれば、結局自分がどのくらい権利を得られるのか(Aが死亡するまでは)確定しないので、こうした権利は不確定だとみなし、「vested subject to open」と呼んで区別がなされている。

もっとも、パターン7で、Aの子は将来 present possessory interest を得られること自体は確定している。確定していないのはその権利の大きさである。したがって、このパターンもある意味 vested と contingent の中間的な状態と言える。もっとも、このパターンのように、vested subject to open であるがゆえに不確定な場合は contingent とは呼ばれない。(Estate制度の文脈で、contingent かどうかに関わらず一般的に「不確定な」と表現したい場合は「uncertain」というのが普通。)
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アメリカ財産法|Real Property(不動産法)|Estate制度(不動産権)|Future Interests (将来権)(3):将来権の分類に関する補足

ここでは、future interests のうち特に (contingent) remainder と executory interest の違いについて補足する。やや複雑な説明になるので、present possessory interests と future interests の両方について全体的な理解を得てからお読み頂くことをお勧めする。

まずは次の2つの例を見比べて頂きたい。いずれもOがAに土地を譲渡しているという前提である。

     例1:  "To A for life; but if the Land is used for any purpose other than library purposes, then to B." (Aに life estate を設定するが、[Aの死亡時に]土地が図書館の目的以外で使用されていたら、[Oに復帰するのではなく]Bの下へ移転することとする。)

     例2: "To A, but if the Land is used for any purpose other than library purposes, then to B." (Aに fee simple を設定するが、土地が図書館の目的以外で使用されたら、Bの下へ移転することとする。)

結論から言うと、例1のBは contingent remainder を、例2のBは executory interest を有している。

「executory interest は、ある条件が満たされたときに第三者が土地を保有できる権利だったはず」と理解していると、上の例1と例2の区別がつかなくなる。この両者を正確に区別するためには、remainder と executory interest の意味を正確に見直す必要がある。

改めて、remainder とは、@譲受人側に設定される future interest であって、A前の権利が人の死または単なる期間の経過(natural termination)によって終了するのと同時に present possessory interest になり得るもの、をいうとされている。

これに対し、executory interest には定義の仕方が2通りある。簡単な方の定義をすると、executory interest とは、譲受人側に設定される future interest であって remainder 以外のもの、となる。しかし、これでは executory interest の中身がよくわからない。

そこで、remainder の中身をもう少し噛み砕いて見てみる。上記 remainder の定義の@は、譲渡人に設定される future interest ではないこと、を意味している。Aは、前の権利が人の死または単なる期間の経過(natural termination)によって終了した時点から、一瞬でも時間をおかずに直ちに present possessory interest になり得るもの、を意味している。Aをさらに敷衍すれば、life estate または lease の終了に直ちに続き得るものであること、ということになる。「life estate や lease の終了後、時間が空いてから present possessory interest になる場合などあるのか。」と疑問が生じるところだが、たとえば、OがAに期間5年の lease を設定した場合で、5年が経過しAの権利が終了した後、さらに1年おいてからBへ life estate を設定する、という権利設定の仕方も可能である。この例の場合だと、present possessory interest は、O→A→O→B、という順に移転する。この場合のBのように、一旦権利を取り戻した譲渡人(O)の権利から権利を承継する場合には、Bは他人の権利を cut short する、と考えることになるらしい。このあたり、なぜこう考えるのかの理由はよくわからない。1000年近い長い歴史の中で形成されたきた理論なので、必ずしも合理的な説明のつかない理由が何かあるのかもしれない。

とにかく、remainder が上記のような中身の権利であることを踏まえると、executory interest をいわば表から定義することも可能となる。すなわち、executory interest とは、譲受人側に設定される future interest であって、present possessory interest となるためには他者(譲渡人または自分以外の譲受人側の人)の権利を "cut short" しなければならないもの、である。この定義は、上で「簡単な方」として記載したいわば裏からの定義と、当然ながら同じ内容になる。

Remainder と executory interest の正確な意味を踏まえると、remainder は fee simple に続くことはあり得ないことがわかる。なぜなら、fee simple は(それがたとえ defeasible fee であったとしても)人の死または単なる期間の経過(natural termination)によって終了することはないからである。この理解は、remainder と executory interest を区別するのに役立つ。

ちなみに、executory interest には一応2種類の分類があって、自分以外の譲受人側の人の権利を cut short するものを「shifting executory interest」、譲渡人の権利を cut short するものを「springing executory interest」という。したがって、上に記載した期間5年の lease の例では、Bは springing executory interest を有していることになる。もっとも、これらの区別は概念の整理に役立つだけであって、区別自体に実質的な重要性はない。(私が受けた授業でも、教授は一切これらの用語を用いなかった。おそらく、学生に過度な混乱を与えないため、意図的に省略したのだと思う。)
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2014年05月05日

アメリカ財産法|Real Property(不動産法)|Real Covenant と Equitable Servitude (1)

アメリカ不動産法の中には、相隣関係に関する法分野があり(law of neighbors)、ここには地役権(easement)、ニューサンス(nuisance)などの法理が含まれるが、ここで記述する不動産権に付される約款(covenant)についての法理もここに含まれる。いずれも近隣の不動産同士の関係を調整するための法理で、目的はおおよそ共通するが、その要件効果がいずれも異なるため、場面に応じて適切に使い分けることが求められる。

不動産権に付される約款(covenant)は、たとえば「この土地は住宅用であり、居住用の建物以外を建ててはならない。」といった制限を土地に課すために用いられる。このような制限は、当事者間の合意として行うことで実現でき、その限りでは契約を締結するのとほとんど変わるところはない。ここで、real covenant(物的約款)(*1)や equitable servitude(エクイティ上の制限的約款)(*1)といった法理が登場するのは、当初合意した当事者からその地位を承継した者が現れた場合である。契約法の考え方からすると、地位を承継した者自身が合意しない限りそのような制限に服することはなさそうだが、これを一定の場合に可能とするのが real covenant であったり equitable servitude といった法理である。

(*1)訳語について: real covenant と equitable servitude については、日本法に対応する概念がない法理であるためか、定訳と呼べるものがないように思われる。とりわけ、equitable servitude は日本語にしづらい概念であり、上記の訳語は私の試訳であるのでご注意頂きたい。概念の内容を示す日本語をあえて考えると、real covenant は「不動産権と共に移転する約款であってコモン・ロー上の救済を求めうるもの」、equitable servitude は「不動産権と共に移転する約款であってエクイティ上の救済を求めうるもの」となるが、これでは記述が冗長になり過ぎるので、ここではあえて原語のまま用いることにしている。

1. Real Covenant と Equitable Servitude が想定している事案

Real covenant や equitable servitude が問題となってくるのは、典型的には次のような事例の場合である。

事例: BN1は隣接する甲土地と乙土地につき fee simple absolute(所有権)を保有しているところ、乙土地をBD1に譲渡した(BD1に fee simple absolute を設定した)。このとき、BN1は付近の住環境を保つため、「乙土地には商業施設を建ててはならない。」という約款を付して乙土地をBD1へと譲渡した。

このとき、以下のそれぞれの場合に、BN1またはBN2がBD1またはBD2に対し、BN1・BD1間で合意された約款への違反を主張できるか、というのがここでの問題の所在である。
ABD1は乙土地をBD2に譲渡し、後にBD2は乙土地に店舗を建てて営業を開始した。BN1はBD2に約款違反を主張できるか。
BBN1が甲土地をBN2に譲渡し、後にBD1は乙土地に店舗を建てて営業を開始した。BN2はBD1に約款違反を主張できるか。
CBN1が甲土地をBN2に譲渡し、BD1が乙土地をBD2に譲渡し、後にBD2は乙土地に店舗を建てて営業を開始した。BN2はBD2に約款違反を主張できるか。

BN1 <---> BD1
 |         |
 |         |
BN2       BD2

なお、@仮にBD1が乙土地に店舗を建てて営業を開始したという場合にBN1からBD1へ法的請求ができるか、という問題も存在するものの、BN1とBD1はもともとの約款の当事者同士なのでこれに基づく請求をなしうることに疑問はなく、real covenant や equitable servitude の問題は生じない。

2. この法理の理解の仕方

初めて real covenant と equitable servitude の法理を目にすると、これらが似たもののように見えてなぜ要件が大きく異なるのか、それぞれの要件の意味は何なのか、何となくしっくりこない感じが理解を妨げてしまう。これはおそらく、これらの法理が判例法主義やコモン・ローとエクイティの区別といった英米法の最も英米法らしい部分を多く取り込んで発展してきたことによるのではないかと思われる。そのため、日本法を学んできた人がこの法理を理解するためには、いくつかのコツがある。

- 演繹的な思考をしない

大陸法に特有な演繹的な思考方法に慣れた我々がこの問題を目にすると、つい「real covenant / equitable servitude とは何か」「それぞれが認められるための要件・効果は何か」という思考経路をたどりがちだが、これらの法理に限って言うと、このように考えるとかえって混乱してしまう。「もともとある当事者間でなされた約款がこれらの承継人にも主張できるか」というのが問題の出発点であり、コモン・ロー上これが認められる場合の約款を real covenantエクイティ上認められる場合の約款を equitable servitude と呼んでいるのであって、「real covenant / equitable servitude とは何か」から出発してしまうと、法理の中身がよく見えてこずに混乱してしまいかねない。

- コモン・ローとエクイティの違いを意識する

Real covenant も equitable servitude も、もともとはある当事者間で不動産権に関する合意がなされたことを前提としている(*2)。この合意が、承継人との関係で問題となる場合に、コモン・ロー上の救済を求めるのかエクイティ上の救済を求めるのかによってその要件は変わってくる、ということも当然の前提とされている。そのため、両者の違いは、基本的にはコモン・ローとエクイティの考え方の違いが反映されたもの、と理解して差し支えない。

(*2)ただし、equitable servitude の場合には common plan と呼ばれるケースで暗黙の合意が認められる場合がある。

- Real Covenant と Equitable Servitude が機能的には類似することを理解する

両者はコモン・ローとエクイティという異なる法体系の中で発展してきたものであり、元来は全く別個の法理であったようである。そのこともあってか、文献等を見ても両者は異なる項目の下に整理され、一見すると全く違う法理のようにも見える。確かに、成り立ち上、また理論上は別個の法理のようではあるが、両者の問題状況は同じである。要するに、損害賠償請求(コモン・ロー)をするのか差止め請求(エクイティ)をするのかによって要件が変わってくるのであり、そのように機能面に着目して理解してしまって全く問題ない(*3)。

(*3)後で詳述するように、「notice」の要件の理論的根拠は元々 real covenant と equitable servitude とでは異なっていたが、レコーディング・システム(登記制度)を前提とする現在では、実質的にはほぼ同じ内容を意味しているようである。


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アメリカ財産法|Real Property(不動産法)|Real Covenant と Equitable Servitude (2)

ここでは、相隣関係に関する real covenant(不動産権と共に移転する約款であってコモン・ロー上の救済を求めうるもの)について説明する。必要に応じ、「Real Covenant と Equitable Servitude (1)」の事例を参照して頂きたい。

3. Real Covenant の要件・効果

Real covenant や equitable servitude の議論においては、約款により土地の利用の制約を受ける側を “burden side”(負担側)、約款により利益を受ける側を “benefit side”(利益側)と呼んで区別する。前掲の事例では、約款の内容に照らすと、BD1とBD2が負担側、BN1とBN2が利益側である。負担側と利益側とで利益状況が異なるため、どちらが承継された場合なのかで約款が法的拘束力を持つための要件も異なっている。

(1) Burden(負担)側の要件

負担側に不動産権の承継が生じた場合、すなわち前掲の例でBD2が元々の約款に拘束される要件は次のとおりである。

(i) Writing: 元々の約款が書面でなされたこと
(ii) Intent: 元々の当事者が承継人を拘束する意図を有していたこと
(iii) Touch and concern: 約款の内容が土地の利用に関するものであること
(iv) Horizontal privity: 水平的関係が存在すること
(v) Vertical privity: 垂直的関係が存在すること
(vi) Notice: 承継人へ通知がなされていること

この real covenant の法理は、考えてみれば承継人当人自身は合意していないにもかかわらず、被承継人が合意していた約款に拘束されるという結果を導くものであるため、契約法の視点からすると非常に特殊である。そして、このように承継人をも拘束する合意の効力をあまりに広く認めてしまうと、当初の当事者による土地利用の制約を広く認め過ぎ、後々の土地利用が不当に制約されることにもなりかねない。そのため、一定の場合に承継人に対する約款の執行を認める必要があることは認識されつつも、これを認める要件は厳格に設定されてきた。

(ii) Intent は、前掲の例でいうとBN1とBD1が乙土地の承継人(BD2ら)をも拘束する意図で約款を定めていたことを意味する。このような意図がなければそもそも承継人を約款に服させる必要はないのだから、当然の要件と言える。もっとも、常に意図が明示されていなければならないかというとそのようなことはなく、約款の内容から意図が推認されるのであっても構わない。

(iii) Touch and concern は、約款の内容が土地の利用に関するものでなければならないという要件で、これにより単なる当事者の行為義務と不動産権に関する義務とが区別される。前掲の例のように土地の建築制限に関する約款は touch and concern が認められる典型例と考えられている。一方、たとえば「乙土地に居住する者は年に2回の地域の祭りに参加すること。」といった約款は単なる契約上の義務であって touch and concern は認められないと思われる。

(iv) Horizontal privity が問題の多い要件で、この要件が認められるケースは極めて限定されている。前掲の例では、約款を当初合意した当事者であるBN1とBD1との間にこの水平的関係が認められることが必要となってくる。元々イギリスでは、賃貸人・賃借人の関係でしかこの水平的関係を認めてこなかった。アメリカではこれを他のケースにも拡張し、土地の譲渡人・譲受人(*1)や、地役権が設定された場合の要役地の権利者と承役地の権利者、といった関係でも水平的関係を認めている。しかしながら、それ以外にどういったケースでこの水平的関係が認められるのか、水平的関係を認めるための一般的な基準は何であるのかは、十分に解明されていないらしい。その一方で、そもそも水平的関係の要件は不要であるとの議論も存在するらしく、この要件の外延に関する議論はよくわからない。(しかも悪いことに、real covenant よりも equitable servitude の方が実務的には使いやすく real covenant に関する判例の集積が期待できる状況にはないとのことで、この要件に関するケース・ローが今後整理されることはないのかもしれない。)

(*1)土地の譲渡人・譲受人の関係は、一見すると次の垂直的関係に当たるのではないかとも思えてしまう。しかし、ここでは「当初約款を合意した当事者同士」に着目し、「その当事者間に何らかの関係性(privity)があるか」という順序で議論が進んでいくので、譲渡人・譲受人の関係であっても、それが当初約款に合意した当事者同士であれば、「水平的」関係が認められるということになる。

(v) Vertical privity(垂直的関係)は、前掲の例でいうとBD1からBD2へ権利の承継があったことを意味する。

ここまでの(ii)から(v)までが real covenant の固有の要件である。

これらに対し、まず(i)の書面性の要件は、詐欺防止法(the Statute of Frauds)に基づくものである。詐欺防止法の下で書面が要求される契約類型の中に「不動産の利益の移転を含む契約」があるが、土地の利用に関する約款はこれに当たると考えられているためである。この要件はあくまで詐欺防止法により要求されるものなので、詐欺防止法の例外の場合の適用もあり、「一部履行による抗弁の喪失」が認められる場合には書面性は要求されないことになる。もっとも、土地の利用に関する約款は、以下の通知(notice)の要件を満たす目的ともあいまって、譲渡証書(deed)の中に記載されることが多く、この要件が問題となることはほとんどないらしい。

最後に(vi)の通知(notice)の要件は、レコーディング・システム(登記制度)の存在を前提とすると事実上 real covenant の執行を認めるためにも要件となる、という位置付けの要件である。よって、これも real covenant 固有の要件ではなく、レコーディング・システムの議論によって結論がもたらされる要件となる。したがって、上記の例でたとえばBD2がBD1からの贈与(gift)で権利を承継した場合には、BD2はそもそも「善意の有償取得者(bona fide purchaser)」にあたらないので、通知も不要ということになる。

(2) Benefit(利益)側の要件

利益側に不動産権の承継が生じた場合、すなわち前掲の例でBN2が元々の約款に基づいた請求をするための要件は次のとおりである。

(i) Writing: 元々の約款が書面でなされたこと
(ii) Intent: 元々の当事者が承継人を拘束する意図を有していたこと
(iii) Touch and concern: 約款の内容が土地の利用に関するものであること
(iv) Vertical privity: 垂直的関係が存在すること

比べてみるとすぐにわかるとおり、負担側での要件とされていた水平的関係(horizontal privity)と通知(notice)は要件とされていない。これは、負担側の承継人への執行は厳格であるべきこととのバランスによるものなどと説明されている。

(i)(ii)(iii)の要件は負担側の要件と同じである。(iv)の垂直的関係は、利益側であるBN1からBN2へ承継が生じていることを意味する。

(3) 補足

前掲の事例のCの場合には、利益側の承継人から負担側の承継人への請求となるので、負担側についての要件と利益側についての要件の双方が満たされなければならない(といっても大部分は重なり合うが)。

(4) 効果

Real covenant はコモン・ローの法理なので、これにより請求できるのは損害賠償請求である。

ただ、発想としてはむしろ逆で、「損害賠償請求をしたければ上記の要件を満たす必要があり、そうして承継人への(からの)執行が認められる約款を real covenant という。」と考えた方が理解しやすい。


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アメリカ財産法|Real Property(不動産法)|Real Covenant と Equitable Servitude (3)

Real covenant の説明に続き、ここでは、相隣関係に関する equitable servitude(不動産権と共に移転する約款であってエクイティ上の救済を求めうるもの)について説明する。

4. Equitable Servitude の要件・効果

要件・効果の説明に入る前に equitable servitude という法理について少し補足する。3.で説明したとおり、real covenant が認められるための要件が厳しく制限されていて、とりわけ水平的関係が認められる場合が極めて限定されていたため、救済の必要があるにもかかわらずこれが得られない場合というのが現れてくることになった。そこで、こうした場合にエクイティがエクイティの思考の上に立って救済を与え、形成されたのが equitable servitude である。成り立ちがそのような背景事情によるため、real covenant に比べその要件は緩やかである。とりわけ、水平的関係も垂直的関係も要求されないという点に特色がある。

Equitable servitude も real covenant と同様、負担側と利益側で要件を若干異にする。

(1) Burden(負担)側の要件

負担側に不動産権の承継が生じた場合、すなわち前掲の例でBD2が元々の約款に拘束される要件は次のとおりである。

(i) Writing: 元々の約款が書面でなされたこと
(ii) Intent: 元々の当事者が承継人を拘束する意図を有していたこと
(iii) Touch and concern: 約款の内容が土地の利用に関するものであること
(iv) Notice: 承継人へ通知がなされていること

この4要件のうち equitable servitude において最も重要なのは、(iv) の通知の要件である。エクイティでは一般に、「知っていたにもかかわらずあえてその期待に反する行為をした」事実を inequity(不公平)と見て、救済を与える方向に考える傾向にある。ここでも同様で、「土地に付された制約を知って権利の承継を受けたのにもかかわらず、その制約に反した」という事実こそが、エクイティ上の救済を与える根拠となるのである。別の言い方をすれば、水平的関係も垂直的関係も要求しないのは、コモン・ローでは救済が得られない場合に救済を与えるというエクイティの存在意義に基づくのみならず、一方で、通知の存在があればエクイティの観点からは救済を与えるためにそれで十分だから、と理解することができる。

以上のとおり理論的根拠は real covenant の通知の要件とは異なるものの、通知は登記によるものでもよいとされているので、その意味では real covenant における通知の要件とほとんど変わらなくなっている。もっとも、equitable servitude の基本的先例である Tulk v. Moxhay, 41 Eng. Rep. 1143 (1848) はエクイティ上の救済を認めるために通知が必要だと言っているので、そもそも承継人が「善意の有償取得者」ではない場合にも通知が必要なようにも見えるが、そのように real covenant の場合と異なる考え方をする必要があるのかないのかまでは、よくわからない。

その他、(i)(ii)(iii)の要件は real covenant の場合と基本的に同じだが、一つ違うのが、common plan と呼ばれるケースの場合で土地の利用を制限する約款の存在が黙示的に推認されるときには、書面は要求されないという点である。Common plan というのは、典型的には、広い土地を有するデベロッパーが土地を一戸ごとの区画に区切って分譲するというケースのことで、このようなケースでは地区の統一感を保つため、建築制限が付された上で分譲されることが多い。通常は、譲渡証書(deed)の中に建築制限を約款として記載するはずだが、仮に何らかの誤りにより譲渡証書への記載が漏れてしまったとしても、common plan の存在が分譲の経緯や周囲の状況からわかる場合には、必ずしも個別に書面化されていなくても周囲と同様の約款が法的拘束力を持つものとされることがある。

(2) Benefit(利益)側の要件

利益側に不動産権の承継が生じた場合、すなわち前掲の例でBN2が元々の約款に基づいた請求をするための要件は次のとおりである。

(i) Writing: 元々の約款が書面でなされたこと
(ii) Intent: 元々の当事者が承継人を拘束する意図を有していたこと
(iii) Touch and concern: 約款の内容が土地の利用に関するものであること

通知の要件は「負担側を約款の制約に服させなければ不公平」と言えるためのエクイティ上の要件であったので、利益側では最早問題とならない。そのため、要件はさらにシンプルなものとなっている。意味内容は real covenant のものと同じである。

(3) 効果

Equitable servitude ではエクイティ上の救済が与えられるので、差止め(injunction)がその効果の代表である。ただ、「差止めを得たければ上記の要件を満たす必要がある。」と逆に考えた方が理解しやすいのは real covenant と同じである。 

なお、エクイティに共通してあてはまる抗弁も適用があるので、たとえば laches(消滅時効類似の抗弁)や unclean hands(クリーン・ハンズの原則)を抗弁として主張することは可能である。


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