留学先を何を基準に選ぶべきかという考慮要素は「留学先の選び方(1)(2)」に記載しましたが、一方で、一見考慮すべきように思われるもののその実大して重要ではない要素というものもあります。
(1) ABA認定ロースクールかどうか
Bar Exam を受ける場合にはABA認定ロースクールを修了しないと受験資格が得られないそうなので、本来は重要な要素です。ただ、日本人が普通留学するロースクールを選ぶ限りでは、ABA認定でないロースクールは無いはずですので、よほど変わったロースクールへ行こうとしない限りは気にしなくて大丈夫だと思います。
(2) どの州の大学がよいか
ご存知のとおりアメリカは大半の事項について各州に権限があり、契約法、会社法、刑法その他基本法のほとんどは各州ごとにルールが存在しています。となると、たとえば「あまりビジネスの盛んでない州に行くと実務であまり使われない州法を学ぶ羽目になるのではないか」とか、「NY Bar Exam を受験するならニューヨーク州の大学がいいのではないか」とか、思われるかもしれません。しかし、地理的な環境は抜きにして、州によって学ぶことが全く変わるということは、基本的にないと考えてよさそうです。少なくとも私の通ったボストン大学について言うと、授業の中でマサチューセッツ州法が扱われることはほとんどなく、あったとしても何かの具体例でたまたまマサチューセッツ州の刑法などが取り上げられるといった程度です。
NY Bar Exam にはニューヨーク州法からの出題もあるので、Bar Examを受験する場合には最終的にニューヨーク州法も学ぶ必要に迫られます。しかし、各州法もコモン・ローのメインストリームを意識して特別なルールを定めているのが通常です。したがって、まずはごく一般的なコモン・ローを学ぶのが先で、それはどのロースクールに行ったとしても、おそらく同様のケースブックで同じような内容を学ぶことになるはずなので心配はいりません。
図書館にはもしかするとその州の文献が中心に置かれていることがあるかもしれません。ボストン大学の図書館には「Massachusetts Practice Series」などが開架図書として収蔵されている一方、他州の一次的資料はほとんど見当たりません。しかし、Bar Exam との関係に限って言えば、予備校のテキスト以上にそうした文献に当たって勉強する時間はまずないので考える必要はありません。また、調査・研究目的との関係でも、Westlaw等のオンライン・データベースを用いれば他州の資料にも容易にアクセスができますので、あまり考える必要はないと思います。
(3) その大学がどの分野で有名か、著名な教授がいるか
契約法や訴訟手続といったアメリカ法の基本を学びたい、という大半の留学生にとっては、その大学が特定の分野の研究実績で評判が高いことや高名な教授が在籍しているといったことは、あまり考える必要がないと思われます。
2セメスター制の1年間のLL.M.プログラムでは8〜10科目程度を履修するのが通常で、そのうち2〜3科目の必修科目があったりすると、基本的な科目を履修するのがせいぜいとなります。2セメスターのプログラムの中で、高度に専門的な科目を十分に履修することと両立するのは難しいと考えた方がよいかもしれません。NY Bar を受けるとなるとなおさらです。となると、基本的な科目であればどのロースクールも十分な授業を提供していますし、その内容も、アメリカ中で使われている著名なケースブックを利用してなされることが普通なので、大学によって教わることが大きく変わるということはないはずです(もしメインストリームから大きく逸脱してしまうと、ABAの認可が得られなくなるような気がします)。教える教授によって取り上げるケースが変わることはもちろんあり得ますが、そこまで気にしても仕方がないように思います。
(4) 大学の所在地 - 学習環境との関係
たとえば、勉強をする上で都会の方が大きな書店があって有利なのではないかとか、予備校の授業が利用しやすいのではないかといった心配があるかもしれませんが、多少の違いはあるものの、ほとんど影響はないと考えてよいと思います。
書籍については、普通の学生の場合、授業で指示されたケースブックを読むだけで精一杯で、それ以外に多くの本を購入するようなことにはおそらくなりません。もし参考書(study aid と呼ばれる)の類が必要になっても、メジャーなものは大学の書店で扱われているはずです。あるいはAmazonで注文すれば足ります。他方、たとえばボストンにはそれなりに大きな書店はいくつかあるものの、日本に比べて専門書のラインナップが充実しているとは言いがたく、街中の書店に専門書を買いに行くことはまずありません。
予備校について言うと、最大手Barbriの場合、ニューヨークで生講義がある他は、各大学のキャンパスでビデオ講義を聴講するのが一般的な受講スタイルとなります。ビデオ講義は大抵の大学で実施しているようですので、あらかじめ気にする必要はないと思います。また、最近はインターネットでも授業が視聴できるようになっています。
(5) 図書館の蔵書数
一見、蔵書数が多い方が勉強や論文執筆が有意義に進みそうに思えますが、案外これが重要でない理由がいくつかあります。
第一には、図書館の蔵書の大多数は、膨大な判例集と大学のロージャーナル等の論文集で占められているためです。これらは、ある程度の規模の大学であれば基本的な文献として取り揃えているはずであり、公表された蔵書数にかかわらずこれがない大学は考えられません。
第二は、判例集やロージャーナル等蔵書の多くは、今ではインターネットベースのデータベース(WestlawやLexisNexis)で参照可能であり、しかも今ではデータベースでの調査手法を用いることがほとんどだからです。私の大学の図書館にも膨大な蔵書が収蔵されていますが、これら紙ベースの文献を頻繁に調査している人をあまり見たことがありません(私自身はリサーチペーパーを書く際、紙ベースの文献を探し回って手がかりにするのが好きですが、最後はWestlaw等で検索した情報を利用してペーパーを書き上げていました)。
第三には、判例集やロージャーナル以外のレファレンス(アウトラインやホーンブックなどと呼ばれるもの)が大量にあったとしても、普通に授業を受けて勉強する限りにおいてはそこまで読んでいる暇はまずないからです。ロースクールの授業は大抵の場合ケースブックを中心に進められます。日本の判例百選やその他判例集、ケースブックをイメージすると、これ以外に基本書の類がなければ学習は進められない気がしてきます。しかし、アメリカのケースブックの場合、ケースブックをじっくり読めば必要な内容は一冊で学べる仕組みになっています。
もちろん、例外として、研究にも取り組んでみたいということになると、自分が取り組みたい分野の蔵書が充実しているかどうかは問題になってきます。おそらく、設置されている授業科目とある程度関連しているはずです。また、日本法を含めた外国法との比較をしてみたい場合だと、外国文献は大学によって蔵書に濃淡があると思われますので、事前に調べておいた方がよいと思われます。たとえば、日本語文献となるとボストン大学ではほとんど見たことがありません。
posted by Porter Cambridge at 00:58|
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